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リニア彗星が分裂・拡散。今後消滅へ

【2000年8月10日公開・更新】


  7月の下旬に「肉眼でも見える彗星になるのでは」と期待されていたリニア彗星(C/1999S4)。なかなか明るくならなかったこの彗星を、多くの天文ファンがやきもきしながら注目していました。パレットおおさきでも、地球に再接近した7月22日に親子天文教室が開催され、このリニア彗星を観察できました。その晩のリニア彗星は6.5等。街明かりの中で尾はみえなかったものの、集光の強い頭部を見ることができました。

 さて、この彗星に大きな異変が起こりました。7月28日ごろ、彗星観測をされている方から、リニア彗星の見え方が急激にみすぼらしいものになっているという情報が入っったのです。太陽に再接近する7月27日。太陽からのエネルギーを最も強く受け、彗星自身の活動がもっとも高まるはずの日。最も関心が高まる中、この彗星が驚くべき変貌を遂げてしまったのでした。
 地球に接近した7月22日頃には、頭部の明るい集光と尾が観測されていましたが、28日の観測では、頭部の集光も、尾も見えない姿になってしまったそうです。1週間前にあれほど丸く明るかった頭部は輝きが失せ、まるで、「実の落ちたさやえんどうの殻」のような形でぼうっと霞んでいたのです。
 いったい、この彗星に何が起こったのでしょうか。
 ハッブル宇宙望遠鏡の観測などから、リニア彗星の核(本体の部分)が7月初旬から分裂していくようすがとらえられています。その後、核はどんどん崩壊していき、ついに枯れ果てて行く運命となったもようです。
 今後、リニア彗星は1ヶ月で消滅してしまうだろうと、天文学者たちは予測しています。

 さらに、http://www.spaceweather.com/ では、最近の衰えたリニア彗星の写真とともに、彗星が衰えていく様子をとらえた連続写真が掲載されています。また、ハッブルによる核の分裂拡散の様子はこちらSTScI-PR00-27 (2000/8/7)です。また、ESO Press Photo 20/00にも、驚くべき写真が掲載されています。ぜひご覧下さい。

リニア彗星は、8月8日現在10等という明るさです。よほど空のいいところで写真にでも撮らないとわからない状態で、あと1ヶ月以内で、完全に見えなくなってしまうでしょう。

  今回の現象を「爆発」と表現される方もいらっしゃるようですが、地上でいう爆発や、太陽面のフレアなどの爆発とはちょっとちがいます。今回の現象は、「爆発」というより、正確には、「分裂・拡散」とでもいうべきでかと思います。この彗星の分裂現象というのは、しばしば起こっていまして、96年の百武彗星やタイバー彗星、96年のシュワスマン・ワハマン3彗星も分裂しています。

リニア彗星は発見当初の見込みより、かなり小型の彗星でした。その彗星が太陽に接近しすぎたため、太陽によるエネルギーと、非常に細長い楕円を回るために起こる「遠心力」が作用して、バラバラになってしまったものと思われます。よく、彗星の正体は、汚れた雪だるまといいますが、意外にもろい雪だるまなのかもしれませんね。

 分裂は、内部の物質を放出しますので、アウトバーストという一時的な大増光につながるケースがあります。ただし、今回のリニアやタイバー彗星の場合は、小型であることが災いして、小規模な増光にとどまり、消滅の道をたどってしまったのです。



今回のリニア彗星が拡散していく姿は、消滅してしまったタイバー彗星(C/1996Q1)そっくり!です(1996年11月のタイバー彗星の画像)

   

1996 Oct.20.41UT              1996 Oct.29.41UT

 画像は、「彗星を観測しよう」より

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